「そこのお方、わしらの願い、聞き遂げてくれませんでしょうか?」
「・・・は?」
拍子抜けであった。ことの発端はこの農民からであった
今日は曇り空、適当に街道を歩いている城戸にとある農民が暗い顔をしてかけよってきたのだ
「実は・・・」
話によると次のとおり
まず農民はいつものとおり東の山、近江に近い山へと薬草を採集しにいったそうだ
そこは怨気に満ちている場所で、危ないという
なぜ、満ちているのか?
聞けば斉藤家所属の者がここで命を絶ったという
無念の最中、だったそうだ
それでどうしたのか?
時々その怨霊が山をおり、その近くの家々によっているとのこと
怖いので、霊をしずめてきてほしい
ということだった・・・
「しかし・・・なんでまた?なにがあったので?」
「それは・・・」
口を濁らす。後ろをむき、説明してくれ、というように目で後ろの農民にいった
仕方がないか、そんなかんじで後ろにいる農民は言い始めた
「実は、あの方は小林秀翠といいまして、斉藤家の忍者の中では中の上か、上の下くらいの実力の持ち主だったんですよ」
「いや、だからそこまでの者がなぜ命を絶ったんです?」
「・・・話さなければ成りませんか・・?」
「・・・できれば。そうでないと行く理由がありません。頭は知っているのですか?」
「はい、内々で処理した事件でして・・・」
「事件?」
しまった、と口を滑らした農民はあせり、後ろへ少し下がった
「どんな事件です?」
「い、いえ今のは・・・」
「ちゃんと聞きました。もう言い逃れは無理ですよ」
馬鹿、最初に話した農民はしかり、もう話すしかないか、と諦め顔だった
「・・・ん?ちょっとまってください、内々で処理したのになぜあなたがた農民が知っているのです?」
少し困惑した。
「七丙の馬鹿。実は、私たちは隠密忍者でしてね。内々のことは大体は知っています」
「そうだったんですか・・・!」
驚いた、まさか普通に田畑を耕している農民が忍者とは・・・
今まで監視されていたのか・・・?
「それで、去年おこったことなんですよ・・・」


去年おこったこと・・・
「それは・・・もしかして敵の調略にかかり、無念のうちに死んだという・・・?」
「はい、そのとおりです。しかしまだそれではなかったのです・・・」
実は・・・
たんたんと話を進める農民、いや忍者
しかしその話に仰天し、まさか、ともらした
「・・・ということは、秀翠という方は裏切りの事と城の破壊工作によって捕らわれたというのですか!?」
「はい・・・ですがそれは嘘です。しかしそのときもうすでにおそく、だれかを裏切り者として挙げなければ危なかったのです・・・」
「それで・・・無実の罪で捕らわれ、勝手に裏切り者に挙げられたのですか・・・」
そんなことがあったとは・・・
・・・
そのあともまだ話があったようだ
他にも罪をかぶせ、それらを背負って死んでくれといわれたそうだ
あまりに身勝手な、そう思った秀翠は逃げ出した
しかし評判は底になっており、身を隠すほかなかった
最期は先祖代々の墓がある山へいき、そこで無念のうちに自害したという・・・
「・・・なぜ、なぜ今まで放っておいたのですか?」
「放っておいたのではありません。しかし怨念が強く、何人もの忍者と僧がいったきりもどってこないのです・・・」
「頭は・・・なぜ・・・?」
「それでお願いです。過去を振り切るため、あの者達を鎮めて下され!」
・・
あまりにも身勝手すぎる・・・
「考えさせてください・・・」
後ろを向き、稲葉へ帰る城戸
そうした後姿をずっとみる隠密忍者
「隊長、なぜ我らだけでいかないのですか?」
「我らがいったとしても意味がない。ただ屍を増やすのみ・・・」
「もうそのできごとは2,30年も前っていうのに・・・」
・・・
暗い雰囲気をさらに暗くするように雨が降り始めた
どんよりとした雲の下、雨が降っている中、ただ生きているだけの人間・・・
「人間っていう生き物は、他の生物よりも醜く、怖いもの、だな・・・・」



あまりにも身勝手すぎる
怨霊となった原因はそもそも斉藤家ではないか
敵国はただ調略をしただけ、
それを信じた上層部の人間が斉藤忍者を犯罪者と仕立て上げた
そのせいでその忍者は自害した。そして怨霊となるまでの恨みを抱えながら、蘇った

蘇ったわけではない
死霊として現世にとどまっているだけだ
それをどうにかするのは上層部の人間
それを下層部の、しかも直接かかわっていない人間を始末にいかせようとしている
何を考えている?
保身しか考えていないのか?
いきたくない。私は・・・上層部の操り人形ではない・・・!
しかし・・・
本当の真実を知るためにはいかなくてはならない
それが
どんな真実であろうとも・・・
・・・
行くしか
ないのか・・・
こんなに早く考えがつくとは・・・
しかし・・・
これが最期かもしれない・・・と思う
斉藤家に
仕えるのも・・・


翌日
城戸は再び農民もとい隠密忍者と出会った場所へと赴いた
「・・・ふむ、さて答えはどうですか?」
「それよりも聞きたいことがあります」
語調を強くして相手の気を削ごうとする。
それに押されたのか、多少戸惑ったような表情をみせた
「聞きたいこととは・・・?」
「なぜ私にこのような話を持ちかけたので?」
また戸惑ったような。しかも今回は初めて見る戸惑いだった
「・・・それはわかりかねます」
「なぜ?」
「・・・は・・・?」
「なぜそれを言いに来たのか、そもそも事の発端は何なのか、放っておくと何が起きるのか!・・・あなた、実は知ってるんじゃありませんか?」
図星らしい
困惑し、どう答えたらいいものかと模索しているようだ
他の2人もこの質問に驚き、隊長がどう答えるのか、それを待ってるらしい
「・・・話さなければなりませんか?」
「はい、先日の話では真核について語られていないはず。」
「・・・話します・・・といいたいところですが・・・」
言い始めようと顔を上げた。どうやら今回は本当のことらしい。が・・・
「実のところ・・・私もわからないのです。ただ多少のこと、ああ、それは先日話したことですよ。それを簡潔に説明して来いと・・・」
うそではなさそう、だ
となればやはりいかねばならないのか・・・
「そうですか・・・」
沈黙する
さて・・・いかがしたものか
真相を知ってから行こうと思ったが・・・本当に知らないとは・・・
ならば言って確かめるしかない・・・とはいっても頭に問うても答えは出ないだろう
それならば・・・
「わかりました、とりあえずその場所へいくことにします」
「おお、それは有難い・・・!」
「しかし勘違いしてもらっては困ります。これは自分のためにいくのです。あなたたちのためではありません」
確固とした理由を告げるかのごとく、たんたんと言う城戸。
・・・
私としても真核をつきたいだけであり、ここで話が終わるのは駄目だ・・・
「わかりました。しかしながら・・・物見の報告によるとかなりの数の死霊がそこにいるとか」
「かなり?10数体以下でなく?」
あっけにとられた
いくらなんでも凄腕の忍者だろうがなんだろうが、複数を相手にして戦うのはきつい
ましてや凄腕でなく、下忍の一人である城戸が複数を相手にするなど考えずとも結果は知れてる
これは・・・流石に死ぬかもなぁ・・・
苦笑しながら心でいった
ただ笑い事ではない、それは理性から離れてはいない
「ですので、徒党を組んでいかれるのが良いかと・・・」
「ふむぅ・・・となれば僧などと一緒にか・・・」
いきなりこんな話をしても困るだろう・・・
しかも忍者のもめごと。できるだけ忍者の手で穏便に終わらしたい、が・・・
仕方のないことか
「とりあえず、5日間の間に準備し、そのあとそこへいくようにします」
「わかりました。そう頭に伝えておきます」
シュっ・・・と消えていった
もちろんうしろのふたりも、だ
やっかいなことだが・・・
やるしかないよな・・・
今日は晴天という恵まれた日であった
まるでこの世に恨みなどが渦巻いているということがうそのように思えるほどすっきりとした晴天・・・
これから何が起こるか知らずに・・・城戸はいくことになる


「で、なぜワシがお主を手伝わねばならん?」
「だから、さっきから言ってます。怨霊を鎮めるために僧であるあなたの力が必要なのです」
「だからなぜ、ワシなのだ?」
「あなた僧でしょう!?つべこべ言わずさっさと来てください!」
夜明け早々から大きな声で話す二人の男
怒っているのは城戸であった。さっきから説明しているのに、面倒くさいと言わんばかりの態度を示し、話題を変えたりしてるからだ
この男、宗栄という。もとは信濃の寺の住職の助けにより信濃に住んでいたが、人の集まる美濃に興味を示し美濃へ移り住んできた
信濃の住職から僧という職の事を学んできたが、どうにも粗雑な言葉・態度がぬけない
今は稲葉山城城下町の寺にすんでいる
「しかしなぁ・・・ワシは明日行かねばならぬことがあってなぁ・・・」
「どうせ行かないのでしょう?なら来てください!」
頭をポリポリと手で書く宗栄、僧なので髪の毛がないのは言うまでもないが。
「城戸、別の僧を誘ったほうがいいんじゃないのか?」
薬師の大平三太郎(といってもこれは自称で、本名は不明)はいった
「それもそうなんですが・・・この面倒事は知らない人に頼めることではありません」
「ん〜・・・じゃあ簡単に手をつける方法があるが・・・」
「?なんです?」
「それは・・・」
宗栄には聞こえないように小さな声でいう・・・
それを聞いた城戸は多少驚いた
「三太郎さん・・・本気ですか・・・?」
「だってこうでもしないとこないだろう?こいつは」
「何話してたんだ?」
宗栄は城戸の驚きぶりを見て、警戒しはじめた
「いやなに、商売ごとでね」
「本当か?」
―流石もと盗賊、勘がするどい・・・
内心ばれたらやばいだろうなと思いつつ、三太郎はとりあえず作り話をいった
しかし、それがばれたみたいだ
「何か強制的にワシを連れて行く方法はないだろうかと考えていたんじゃないだろうな?」
「ん〜・・・聞きたいですか?」
にっこりと笑う三太郎、ただ見れば人のよさそうな笑顔だが・・・・
「聞かせろ」
「じゃあ他の方には聞かれたくないので・・・こちらへ」
三太郎は手招きをした
それを訝しがりながらも宗栄は歩み寄った
「実は・・・」
と話しかけた途端、
ゴッ!!!
っと鈍い音がした
そして、三太郎の目の前で宗栄は倒れた
「どうだい?」
笑う三太郎、城戸は苦笑いだった
三太郎は自分が持っていた錫杖で宗栄の頭を力の限りぶったたいたのだった
―怒ると怖いな・・・と内心思った
倒れた宗栄の顔をのぞくと、目が真っ白、口からは泡が出ていた。頭からは血が・・・
「これ・・・やばくないですか・・・?」
「大丈夫大丈夫、一応加減したし・・・・・・・・な・・・・」
軽い調子で言いながら宗栄の顔をのぞいてみる三太郎、しかし少し顔がひきつったのを城戸は見た
「・・・」
「・・・」
「え〜・・・まあ気絶でしょう!!」
「・・・」
引きつった顔で笑いながら、宗栄の体を背負う
―絶対重傷負わせたな・・・
そして三太郎の屋敷まで宗栄を運び、治療した
宗栄が目を覚ますまで二日かかったのはいうまでもない・・・
目を覚ました宗栄は、「なんかきれいな河を見たんだ・・・俺はその河を渡っておふくろのところへいこうとしたんだ・・・」などといっていた・・・
そのおふくろは三年前になくなっていたという・・・
「三太郎さん・・・」
「いやだって、ここまでなるとはね・・・」
苦笑いをしながら言う・・・
あともう少しで稲葉山の墓を増やすところだった・・・
「今度から気をつけてください・・・」
ハァとため息をつきながらいい、三太郎も「ハハッ・・・」と顔をひきつりながらいった


宗栄が目覚めるまでの二日間
城戸はあと誰を連れて行こうか考えていた
「内々で始末したほうがいいかもなぁ・・・」
三太郎や宗栄が一緒に来るのはしょうがないことではあるが・・・
薬師の三太郎は回復などで必要となるし、僧の宗栄は怨霊を鎮め、成仏させるためには欠かせない
となればあとは内々で始末するために忍者でいけばいいか・・・
そう思い、稲葉山城の忍者屋敷へと歩いていった


「失礼いたします・・・」
「おお、城戸か。首尾はどうだ?」
「いえ、まだです。今日頭にお願いしたいことがあります」
少し表情をかえる頭。何か面倒なことでも言われるのかとでも思っているらしい
「数人、忍者を連れていきたいのですが・・・よろしいですか?」
「・・・わかった。では小三田と平次郎、それと恒邑(つねむら)をつれてゆけ」
「はっ」
背後に気配がした。後ろを向けば、先ほどあった隠密忍者の3人であった
「あなた方は・・・」
「はい、先ほど会った者です」
腕もよさそうだ・・・心配はいらないだろう・・・
「では頭、行って参ります」
「うむ、生きて帰って来い」
「はっ」
頭には似合わぬ言葉を聞き、多少驚いた・・・
―とにかく早く終わらすか・・・・
皆に話すために稲葉山城城下町の屋敷へと走っていった
城戸たちがいってから数分後・・・
「頭」
と呼ぶ声が天井から聞こえた
「どうした?」
「あの者たちに行かせてよいのですか?」
その言葉に頭は冷笑した
「ふん、生きて帰ってこようがこまいがワシの知ったことではないわ」
「・・・」
「それより・・・あやつらにあの怨霊を倒してもらわねばならぬ。倒せねばそこまでのこと」
「わかりました・・・」
その答えを聞いたあと、すぐ気配を消した。どうやら後を追ったようだ
「くく・・・さてどうなることかな・・・」
何かを試すように独り言をつぶやく頭
その顔は口だけが冷笑しており、目は笑っていなかった
誰が見ても、何かしら不気味と感じるであろう表情であった・・・


「おお、どうだ?城戸」
「大丈夫でした。これで6人揃いました」
その言葉を聞き、少しほっとしたような表情をする三太郎
「ん?城戸が帰ってきたのか?」
奥で声がした。宗栄であった
三太郎が一昨日、錫杖で気絶させてから二日間、寝込んだきりであった
普通の気絶ならすぐ気がつくのだが、三太郎が力の限り殴ったため重傷を負い、寝込むことになってしまったのだ
「あ、はい。ちなみに・・・頭は無事ですか・・・?」
声を少し小さくしながら尋ねる城戸。しかし宗栄は多少怒り始めた
「大丈夫なわけがあるか!!!三途の川を渡りかけたんだぞ!!!」
顔を真っ赤にして怒る宗栄、トマトのみたいに赤くなっていた
しかし大量に失血していたせいか、そう叫んだ後
バタッ!!!
と倒れた
「はいはい、過去のことはもういいじゃないか」
三太郎は大笑いしながらそういうが、かえって宗栄の気を逆撫でしたようだ
「何おぅ!!!!表に出ろ!!!!」
「病人が何をいってるんだ、寝てろよ・・・」
そういうと宗栄はあたりにあった家具をぶん投げ始めた
「うおっと!!あぶねえな!!」
「おまえも一度三途の川を拝んで来い!!!」
今度はタンスを投げようとした
「おい、知ってるか?」
三太郎は語りかけるように話したが、宗栄は全然聞いていなかった
そしてタンスを三太郎目掛けて投げた
しかし、三太郎は簡単によけた
「おっと、このタンスな、火薬と鉄砲、銃弾が入ってるんだぜ?」
「え・・・?」
城戸は驚き、聞こうとしたが・・・
「これで一発往生しな!!!!」
聞いてくれるはずもなかった
三太郎はタンスから鉄砲をとりだし、構えた
「そんなもの、当たるか!!!!」
「お前で試せばわかるぜ!!!!」
ドンッ!!!
その音に、あたりは騒然となった・・・・



「申し訳ありません、次からは気をつけます・・・」
町方衆が詰め寄ってきたため、わけを話し、どうにか事を終わらせた・・・
次第に野次馬なども消え、静かになった
城戸はふぅ、と一息ついてから屋敷の戸をあけ、入った
「ご苦労さん、どうだった?」
三太郎はそこら中にある家具を整理していた
「これ以上心労を増やさないで欲しいのですがね・・・」
苦笑いをしながら、城戸は言った
「すまねぇ、俺としたことが頭に血が上って・・・」
笑いながら話す。城戸はハァとまた、ためいきをついた
「宗栄さんは?」
「寺の住職に呼び出し食らって今いないさ、青ざめてたぜ?」
くくくっ、と目に少し涙を浮かべながら大笑いをする三太郎
―一歩間違えれば人殺しをしていたぞ・・・
「それにしても・・・小三田さん、平次郎さん、恒邑さん、先ほどはどうもありがとうございました」
お礼をいう城戸。
実は先ほどのケンカの際、
小三田は三太郎の鉄砲を小刀で下に叩きつけた。平次郎は宗栄を刀の柄で軽く急所をつき、気絶させ、恒邑は三太郎の腹を殴った
そのため銃弾は床をつきぬけていったが、人にはあたっていない
そして2人とも、少しの間気絶していた
「礼はいらないが・・・まさかこんなことが起きるとは思ってもいなかった・・・」
三人とも笑っていた・・・
「いやいや、すまねぇ、もしあそこで止めてくれなきゃ、宗栄の心臓を貫いていたぜ」
笑いながら、御礼をする三太郎
―笑い事ではないが・・・
「しかしなぜ、鉄砲を?」
「ん?俺、もともと鍛冶屋だったんだぜ?」
「え?」
意外な返答に驚いた
「まあ鍛冶屋は飽きて、薬師になったんだがな。そのときに作った鉄砲だ」
そういいながら自分の鉄砲を眺める三太郎
「そうだったんですか・・・」
いろいろあるものだなぁと思う城戸であった
そして、その日の夕方、慌てふためいてかけてくる宗栄の姿があった
「ひぃひぃ・・・おまえらのせいだからな!!!!」
「落ち着けよ・・・何かあったか?」
三太郎はいうが、そんなことは無視して
「おまえらのせいで住職に何時間も説教受けたんだ!!!」
「身にはなったろう・・・」
はじめて口を挟む平次郎、呆れ顔でもあった
「とりあえず落ち着いてください・・・」
小三田も、いった
「とりあえず・・・準備をしようではないか・・・」
恒邑はこの場をまとめるために、そういった
「そうですね・・・では明後日までに準備してください」
皆うなづくと、自分の家へと帰っていった
「おい、まて!三太郎!!まだ決着ついてないぞ!!!」
「まあた説教されるぜ?それでもいいのかぁ?」
団子を食いながら、呆れ顔で宗栄にいった
「うぐ・・・」
「じゃあなぁ・・・」
「おい、まて!まてって!!」
三太郎はその言葉に従わずに、歩いていった
宗栄もその後を追うために走っていった
城戸はその姿を見て、少し笑った
平和だなぁと・・・
夕焼けの空が少しずつ黒ずんでいき、ついには満天の星の空となった
城戸は星空を見ながら、自分の屋敷へと戻っていった


オォ・・・オオォゥ・・・・
例の洞窟では、時折うめくような声が聞こえてくる
そこは修験者でもいくことは出来ない場所であった
険しいわけではない
いけば生きては帰れぬと誰でもわかる場所であったからだ
その洞窟の入り口は草木などで覆われていて、見逃しやすくなっている
そのあたりは臭気が満ちていた
周りの木々は一応のことまだ生きている、が生気はほとんどない
動物はそこにはいない。近寄ることができないからだ
夜になれば何かしらでてくるということは誰でもわかる
その洞窟の中では、ある男が一人いた
ぼろぼろの衣をまとい、札をもって何かしらつぶやいている
そのつぶやきが終わると、手の札が青く燃え出した
男は熱いと感じさせないほど、無表情であった
いや
熱くはないのだ
そしてその札が燃え終わると、あたりに青く、丸い光がいくつもでてきた
決して明るくない。薄く、そして少し暗いような光だった
それが下に落ちると、地面から何かがでてきた
複数である
それはもうこの世の生き物ではなかった・・・
そして男は一人、冷笑した・・・





「おい、城戸、話がある」
そう呼ぶのは恒邑であった
寝起きの城戸はとりあえず顔を洗い、着替えをしてから恒邑のいる部屋へと向かった
「話とは何です?」
「まあ、よくわからないんだが・・・どうにも今回の件と関連性が高い」
「といいますと?」
そこで少し間が空いた。恒邑は少し戸惑い、そして話し始めた
「実はな・・・」
恒邑の話は妙であった
先日、山菜取りにいった村人が帰ってこなくなったという
山で遭難したか・・・と皆が思い、捜索したが見つからなかった
しかしよくよく考えてみると遭難するのはおかしい
なぜならば、あの村人は山菜取りでいく場所は山道に近い場所である
それに迷わないように村人達が立て札をつくり、ある程度の場所の木を切り、帰れるように道をつくった
村へ帰る道を除けば、山頂に登る満ちはひとつだけしかない
その村人はその登山道をいったのでは?
それはない、と村人は皆口をそろえていったという
皆が恐れている場所・・・つまり今回の件の場所
そこの近くには鳥居やお札、地蔵などがあるそうだ
それ以上は立ち寄らない・・・立ち寄れば必ず帰れなくなる
それが皆のおきてだという
その場所は登山道から近い場所にある
そのため、登山道を歩く人はいない、そう言うのだった
「それで、どういう関連性が・・・?」
「まあ、聞け」
そしてまた恒邑は話し始めた
なんとしても見つけよう、そうして捜索が始まったが、全然見つからない・・・
それから一日後・・・つまり一昨日
夕方から夜にかけての話らしい
ある村人の数人が山菜取りにいった際に見たという
何を?
いろいろ見たらしい
例を挙げれば・・・人魂や生首・・・そして・・・
先日遭難した村人であったそうだ・・・
なぜわかるか?
その村人、質素ながらも目立つ装飾品をつけていたらしい
首飾りなど・・・
それが、その幽霊達の集団の中にいたらしい
その格好をして・・・
その集団は生きているものを見つけようとしていたらしい
現に他の村人が襲われるのを見たそうな・・・
「それは・・・」
「どうだ、城戸。何かつかめそうではないか?」
「・・・」
「まだ話があるが・・・実は」
「いえ、まってください」
まだ話は続きそうだったが、止めた
「どうした?」
「もうそこまでわかったのなら、そこへいくべきでは?」
ふむ・・・と恒邑はためいきをついた
「まて、まだわからないことがおおい」
「というと?」
「まず奴らの数・強さ、どいつが指導者か?生者を本当に引き込むのか?何を目的としているか? これらがわからない限り、行動できない」
・・・
城戸は恒邑の言葉を考えた
確かにもっともなはなしだが・・・
「とりあえず、情報収集から?」
「ああ」
早めに終わらさないとな・・・
なにやら行く前から良くないことが起きてしまったようだ・・・
「・・・それを象徴するかのごとく雨がふるか・・・」
一人で外を見て、つぶやく
その言葉どおり、少しずつ雨が降り始め、大雨と雷鳴がとどろいた・・・


「ほぉ、あそこへいきたいと?」
「ああ、でどうやっていける?」
「あそこはやめておきなされ・・・このワシでもわからぬ洞窟じゃ・・・」
「じゃあ放っておけってか?」
「そうは言っておらぬ・・・じゃが、行けば帰れぬと思え、といってるのじゃ・・・」
ふぅ、三太郎は頭を左右に振った
城戸と恒邑から情報収集を頼まれた三太郎はすぐに例の場所に近い村へといった
しかしそこへついたのはいいが、いい情報は聞き出せられない
村人達は皆、あの洞窟を怖がっているため、直接みたことがないらしい
行った村人は皆帰ってこなく、代わりに屍鬼となってその洞窟の周りを徘徊しているという
「じゃあ、何が原因なんだ?それぐらいは知っているだろう?」
その問に村長は反論した
「その原因はお主らが一番知っているじゃろう?」
「いーや、深くは知らないね」
「嘘ばかり吐きおって・・・」
村長は嫌気がさしたのか、捨て台詞を吐いた後すぐに後ろへ向き、歩いていった
「おい、まてよ!まだ話が・・・」
「後はお主らが直接見ればわかるじゃろうて・・・!」
そのまま、立ち止まらずにいってしまった・・・
「おいおい・・・いくつになっても短気だなぁ・・・」
ふぅ・・・とため息をつき、山を見た
春になったため、草木が生い茂り始めていた
「こんな山に怨霊がいるとは・・・世も末だねぇ・・・」
とりあえず、何も掴めぬまま帰ることとなった・・・


その後を村長は見ていた・・・
「村長!なぜ言わなかったのです!?」
顔に多少汗を浮かべながら走ってくる村人・・・
「言ったところであの者達が退治できるわけがなかろう・・・」
「しかしそれでは・・・」
「うるさい!!あの男のことをいったとて、変わりなかろう!!」
村人はこの言葉に対し、はっきりと反対する表情を示した
そして、その村人は三太郎の後を追った
「馬鹿どもが・・・」
「馬鹿は、どちらかな?」
不意に聞き覚えのある男の声がした・・・
すぐさま後ろを振り返ると、村長の顔は一変した・・・
「お、お主は・・・なぜ・・・・」
「そのご老体では生きていくのはつらいことでしょうなぁ・・・いっそのこと、生まれ変わってはいかがですかな・・・?」
その男は陰陽師たちがきる直衣を着ていた。しかしそれは多少ぼろぼろになっていて、黒ずんでいた・・・
そして男はニヤリと笑い、スッと袖から十手らしきものを取り出してきた
左手には呪符をとり・・・
「お、愚か者が・・・なぜお主のようなものが・・・」
「型におさまっているのはつまらぬこと・・・あなたもそういっていたではありませんか?」
ゆっくりと村長の方へ歩き始める男・・・
村長は逃げようとするが、石につまづいて転んだ
それを見て男は冷笑した
「おやおや・・・どうしました?みっともない・・・」
村長は急いで立ち上がり、後ろへ下がり始めた
「逃げられるとお思いですか・・・?この私の実力は知っているのでしょう?」
「わかっておるわ・・・だからワシはお前をここで仕留める!!!」
そういった直後、男の周りに青い光が出始めた
「これは・・・?」
「お主を止めるための結界じゃ」
途端に男の周りに青い光が上へ下へと散り、男を包んだ・・・
「どうじゃ!身動きできまい!!」
「・・・」
青い光の結界により、男の姿は見えなくなっていた
だが・・・
「あなたはどうやら目も悪くなってしまったようで・・・」
その男は村長のすぐ後ろにいた
「!?」
後ろへ振り返った途端、動けなくなった・・・
「な、何を・・・した・・・!?」
「なに、ただの結界ですよ。あなたの使った結界と同じく・・・」
足元を見ると、確かに自分の使った結界と同じようなことがおきていた
―ここまで強くなっていたとは・・・
村長は己の認識の甘さに後悔した・・・
「だ、だが・・・結界にはまった者はぬけられるわけが・・・!」
「ええ、確かに。確かにぬけられるわけがありません」
「なら・・・なぜ、お主は・・・・」
その言葉を聞き、男は落胆し、そして冷笑を浮かべた
「あなたは本当にもう老いてしまったようだ・・・わからないのですか?結界にはまった者を・・・」
村長は結界に縛られながらも必死に見ようとした。先ほどの結界を・・・
よく見ると・・・一人の男が横たわっていた・・・
それを見て村長は激怒した
「お主・・・!!我が村の者を・・・!!!!」
その様子に男は動じず、不敵にも笑いながら
「やっとわかりましたか・・・そうです、あなたの村人です。ですが、止めを刺したのはあなた・・・」
「うるさい!!!!お主・・・かような呪術を使いよって・・・無事ですむと思うな!!!!」
その言葉に男は大笑いした
「ハハハッ!!!あなたは私に覚悟はないといっているのですか・・・?どうやら、あなたには失望してしまったようですね・・・」
男はスゥッと札をとり、それを近くにあった岩に放つ
その札は岩に張り付くと少し青く光り、そのまま岩の中に入っていった
その動作に村長はやっと気づき、男にいった
「ま、まさか・・・お主、禁術やらかすきか・・・?」
村長の顔は真っ青になり、少し震えていた
「ええ、それがどうかしましたか?」
村長はこの言葉に寒気を感じた
―もはや・・・助からぬか・・・
男の頭はもう尋常ではなかった
「さて・・・と」
男は札をとり、それを両手に挟んで顔の目の前に手を掲げた
「お・・・主・・・!死んで・・も・・恨む・・ぞ!!」
その言葉に男はまた笑った
「それはありがたいことです。その恨み、私ではなく憎き斉藤家の者で晴らしましょう・・・!」
「・・・!」
そして男は術を唱え始めた。
唱え終わると札は青く燃え、次第に大きくなっていった
「では、ごきげんよう・・・」
そう言い終るとその青い炎を村長の胸に投げた
炎は村長の胸につくと、大きく燃え始めた
「ぐ・・・ぬおおおお・・・!!!」
「さようなら・・・我が師よ。あなたの恨みは我が糧となりて憎き斉藤家を滅ぼす力となるでしょう・・・」
男はその光景を見ながら微笑していた
炎はどんどん大きくなり、村長の身を隠すほど大きく燃え上がると、今度は赤く燃え始めた
そしてその後少しずつ小さくなり、炎が燃え尽きた後には何か得体の知れないものがいた・・・


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Last-modified: 2007-12-10 (月) 03:46:48