「さて・・・話しましょうか」
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7人・・ではなく6人が囲炉裏を囲んで座り、少し落ち着いたところで国久は話はじめた
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「男の素性から追っていったほうが早そうですから、まず男のことから説明させていただきます」
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5人は国久を見て、うなづいた
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囲炉裏の炭が火にあおられてチリチリと音をだす
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昼から少し傾いた、夕方に近い時間であった
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「男の名は小笠原定宗。もと甲斐の侍大将でした」
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「何?甲斐の侍大将だと?」
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恒邑は国久に問いかけた
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「はい、16歳ごろまでは・・・」
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「なぜ抜けた?」
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「今からお話しますので・・・」
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国久は目で恒邑を制した
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「まず定宗は着々と勲功をかせぎ、あっという間に侍大将となりました」
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早々ない話・・・
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「そして18歳の冬、戦へでたのです」
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―それは・・・
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「もしかして、斉藤家と武田家が信濃をめぐって争ったという?」
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城戸は聞いた
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「はい、そのとおりです。結果として斉藤家が奪取しましたが・・・」
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「それがどうかしたのかい?」
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三太郎は横にあった桜餅を手にとっていった
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「はい。そのとき、定宗の父・兄、親戚のほとんどは殺されたそうです」
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当時、といっても去年のことだが
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その戦は大国同士が領地をめぐって争ったため、大きな戦となった
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双方共に被害を出しながら一歩も退かず・・・
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結果、なんとか勝った斉藤家が信濃を占拠、武田家は甲斐一国となった
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そのときの戦は激戦となったため、死傷者の数はとてつもなく多く、略奪なども絶えなかったという
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「つまりだ、恨みを晴らすべく斉藤家にきたというわけか」
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恒邑はいった
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「ご名答。そこで侍になるはずでしたが・・・実は陰陽師の者から誘われてましてね」
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「何を?」
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と間をあけず小三田がいった
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「陰陽師にならぬか、と・・・」
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平次郎は納得し
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「なるほど、だから死霊を操れるのか」
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といった
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これに国久もうなづき
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「ええ、今となっては危険です・・・」
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「しかし、だれだぁ?そいつ誘ったのは」
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三太郎は呆れ顔でいった
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が、国久の顔は暗くなった
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三太郎はそれを見て多少動揺した
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「それは・・・我が村長です・・・」
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5人は多少なりとも驚いた
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在野の法師があんな村にいたとは・・・と
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「村長は定宗を陰陽師として育て、一緒に村をおこしたのです」
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最初は大人しく、普通の優男だった・・・と国久は定宗のことをいう
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「しかし、親族を殺された念が定宗からはなれず・・・村を出た後は行方不明に・・・」
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「そして、つい最近例の場所で見つかり、今こうしている、と?」
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「恒邑さん、あなたには大抵のことは話したはず・・・」
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多少沈黙ができた
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しかし、そこに宗栄の大きないびきが聞こえた
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「しっかしあいつ、あそこまで爆睡できるかぁ?」
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と三太郎はボソっとつぶやいた
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「そして今、復讐を成そうとしているのです」
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「それで退治しよう、というわけですかな?」
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小三田は目つきを鋭くして聞いた
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「はい」
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また、沈黙が屋敷を覆った
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はぁ、というため息がして、その少しの沈黙の間は破られた
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「とりあえず、準備だ」
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と恒邑は皆にいった
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小三田・平次郎はすぐ姿を消し、三太郎も宗栄を叩き起こしてつれて帰った・・・
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城戸も釈然としない話にとまどいながらも、自分の屋敷へと帰っていった
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皆が去ったあと、国久はいう
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「もと戦友といいましたね・・・」
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「ああ・・・」
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「本当なら・・・ここにもう一人いるはずですが・・・」
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「仕方のないこと、あやつがとった行動は今さら後戻りできるわけがない」
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恒邑ははっきりいう
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「あの人にあんな過去があるとは・・・」
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「私もつい最近知らされた」
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「・・・」
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恒邑はとっくりにはいっている酒をお猪口へくみ、飲んだ
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「今は今、昔は昔。過去は切り捨てろ」
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「・・・」
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非情ともいえそうだが、恒邑は国久を気遣っていった
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もうこれ以上悔やんでも意味がないからだ
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「さあ、準備をしよう・・・」
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国久は重い腰をあげ、屋敷へ帰った行った
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恒邑は自らの屋敷に飾ってある物を見た
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ひとつだけ違う物が飾ってあった
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それは戦友の者であった
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「一期一会とはよくいったものだなぁ・・・」
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そしてまた、酒をのむ
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