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ひげ一家の生活から人生の素晴らしさを知ってもらおうと書いていますひげひげ人生劇場。今日は追儺式についてのお話です。


鬼が町中に溢れ、各地で追儺式が盛んに行われるようになってから数日。青ひげじいさんは孫の悪ひげと一緒に豆まきしようと思い岡崎まで来ていました。まずは悪ひげの父親の墓参りをしてから、ニ人揃って追儺法師から豆をもらいに行きます。

しかし、豆をもらっていざ豆まきという時になると悪ひげは鬼が怖くて青ひげじいさんの影に隠れてばかり。青ひげじいさんは笑いながらも悪ひげの手を引いて周りの人達と一緒に鬼に豆を投げます。

子鬼・鬼女・赤鬼・黒鬼を街から追い出し残るは青鬼だけになりました。人の流れにのって二人も向かうと、ちょうど茶店の前でたくさんの人に囲まれて豆を投げつけられていた青鬼を見つけます。青鬼は痛がりながらも門に向かって追い立てられていました。

青ひげじいさん『せっかくもらった豆だがとって置いても仕方がない。これが最後だからお前もお投げ』

青ひげじいさんに促され悪ひげは恐る恐る青鬼に持っていた豆を全部まとめて投げつけました。投げた豆の何個かは青鬼に当たり、青鬼は苦痛に歪めた顔で悪ひげの方に振り返ります。突然自分に振り返った青鬼の形相が恐ろしかったのか、それとも鬼と目が合ったのが怖かったのか、多分その両方なのでしょうが悪ひげはすぐさま青ひげじいさんの後ろに隠れて震えていました。。。

しばらくすると青鬼も門の外に逃げ出し追儺式を達成。さっそく追儺法師に報告すると報酬として鬼の角が与えられたので、青ひげじいさん悪ひげの頭につけてやりました。すると形が気に入ったのか悪ひげは上機嫌で無邪気に喜んでいました。

それから数日後、追儺式も大詰めになり鬼が今日でいなくなるということで、街では災厄を逃れる為に余った豆を鬼にぶつけていました。鬼は外、福は内。。。

青ひげじいさんは今日も岡崎に来ていました。茶屋で昔馴染みの薬師と昔話です。しかし、ひょんなとこから悪ひげの話題になりました。

薬師『どうだい、悪ひげちゃんは元気にしているかい?』

青ひげじいさん『うむ。今日も朝から植物採集しに行っておるよ』

薬師『ほうほう、それは結構なことだ』

青ひげじいさん『いや、しかしそろそろ剣の修行も真面目にさせんとな。。。この時代、女子といえども自分の身は自分で守らねばならぬ。いつまでも呑気でいられるのも問題じゃよ』

薬師『かといってあの子の父親のようになられても困るじゃろう?それに剣の道は辛く厳しい。あの子には過酷すぎやしないか』

青ひげじいさん『ふむ。。。確かに、な。。。じゃが果たしてこのままで良いものかどうか』

青ひげじいさんが思案に暮れていると、ちょうどそこに鬼の角を揺らしながら悪ひげがやってきました。

悪ひげ『薬師のおじいさん!お願いがあるの!!』

挨拶も早々に切り出してきた悪ひげ青ひげじいさんと薬師は驚きました。

薬師『む。。。ワシにできることなら構わんが、一体なんだね?』

悪ひげ『材料はあるので治身粉を作ってください!』

悪ひげの勢いに押されそのまま薬研まで連れて行かれる薬師。青ひげじいさんもこれから孫がどんな行動をするのか不安半分、期待半分でついていきます。

薬研で治身粉を作ってもらった悪ひげは薬師にお礼を言って一目散にかけて行ってしまいました。青ひげじいさんは悪いなとは思いながらも神隠しの唄をして悪ひげの後を追いかけることにしました。

悪ひげの向かった先はなんと青鬼の所でした。青ひげじいさんは、そっと陰から様子を伺います。もし何かあったらいつでも飛び出せるように構えながら。。。

恐る恐る近づいて青鬼に声を掛ける悪ひげ

悪ひげ『あ、あの。。。こんにちは』

青鬼は悪ひげをぎろりと睨みつけます。しかし悪ひげは怯えつつも話を進めます。

悪ひげ『この前は豆をぶつけてしまってごめんなさい。。。』

青鬼は少し驚いた表情になりました。青ひげじいさんも同じく。。。

悪ひげ『青鬼さん達は何も悪いことしていないのに、みんなから豆をぶつけられて。。。あっ!私もぶつけちゃったんですけど。。。あの、その。。。』

悪ひげは言葉を言いあぐねているのか、それとも言葉が出てこないのかモジモジとしています。青鬼はそんな悪ひげをしっと見つめています。そしてようやく悪ひげが再び口を開きました。

悪ひげ『ワガママなのかもしれないけれど。。。私達のこと嫌いにならないで下さい!あの。。。みんな決して悪い人じゃないんです。鬼は怖くて悪いものだって言われてるから、みんな確かめもしないでそれを信じちゃって。。。でも私だって最初は青鬼さん見たとき怖くてじいじの後ろに隠れちゃったけど。。。だけど!だけどホントはそんなことなくて、今だって私と青鬼さんしかいないのに私のこと食べたりしないし。。。あ、私何言ってるかわからないですね。ごめんなさい、うまく喋れなくて。。。』

悪ひげは上手く喋れずうなだれてしまいます。青鬼はただ黙って悪ひげを見つめています。悪ひげは思い出したように治身粉を取り出すと青鬼に差し出しました。

悪ひげ『あの、これ傷に良く効く薬なんです。。。』

青鬼はじっと悪ひげを見つめたまま動きません。

悪ひげ『私、豆まきの時に青鬼さんと目が合って、その時の青鬼さんの目がとても悲しそうだったのを見て私も悲しくなったんです。みんなにお豆をぶつけられて痛かったですよね。。。私達の勝手な理由でお豆をぶつけられて痛かったですよね。。。ごめんなさい。。。本当にごめんさい。。。』

うなだれた悪ひげの頬を涙がつたいます。すると今まで動かなかった青鬼が手を伸ばし悪ひげから治身粉を受け取り、そして青ひげじいさんには聞こえないくらい小さな声で悪ひげに何か囁きました。驚いた顔をして青鬼を見上げる悪ひげ。そして自分の頭についている鬼の角をつかむと、

悪ひげ『みんなはこの角を鬼退治の証にしてるけど、私がこれをつけてるのは青鬼さん達と友達になった証だよ。青鬼さん達のように私にも角があるの。だから私も青鬼さんも同じ。同じなら友達になれるでしょ?』

涙でくしゃくしゃになった顔で微笑む悪ひげ悪ひげの真似をして自分の角をつかむ青鬼。青ひげじいさんにはその時、青鬼が笑ったように見えました。

どんなに剣が上達してもその剣を扱うべき『心』がなければ、それはただの凶器にしかならない。だが『心』があれば鞘から抜かれなくてもその刀は大きな力となり、自身を守ることができる。折れることのない信念という名の刀は決して力だけでは磨くことはできない。日々の己の在り様により磨がれるものだ。悪ひげはいつの間にやら立派にその刀を磨き上げていたようだなと青ひげじいさんはごちました。

去りゆく青鬼の手には悪ひげがあげた治身粉が。連日連夜の豆まきによりできた傷はそう簡単には癒えないだろうが、青鬼の手の上にある小さな傷薬がどれだけ心の傷を癒してくれるものであろうか。

悪ひげは小さくなっていく青鬼の後ろ姿にいつまでもいつまでも手を振り続けているのでした。


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Last-modified: 2007-12-10 (月) 03:46:47