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ひげ一家の生活から人生の素晴らしさを知ってもらおうと書いていますひげひげ人生劇場。今回は一部の方の要望によりサイドストーリーを一つ。


それは遠い遠い昔の話。。。

−信濃・松本−

町人『嘘じゃねっ!オラ本当に見ただよ!ありゃぁ人間じゃねぇ』

松本の茶屋の前には人だかりが出来ています。一人の町人がまくしたて、その周りに人が集まっているのです。

町人『あの目はモノノケの目だ!奴は人の形をした化け物じゃあ!』

その町人の言葉に周りの人だかりからざわめきが起きます。すると一人の修験者が前に出てきました。

東光坊『あの娘の名は紅葉(くれは)。奴は深い悲しみに苦しみつつ500年もの間、独りで生き続けておるそうな』

その言葉でさらにざわめきが大きくなります。

町人『季節が過ぎても枯れるに枯れれない。。。だからいつまでたっても紅葉(こうよう)なのか。。。』

そう。。。信濃は上越。今やすっかり雪景色となっています。

若者『その紅葉っていう奴ぁどこにいんだい?』

ざわめきの中から、若者が出てきました。顔には無精ひげをはやしとても武士には見えませんが。。。

東光坊『む?お主紅葉の元に行くつもりか。。。?』

若者『あ?。。。あぁそうだよ。だってそいつは死ぬに死にきれねぇんだろ?楽にしてやらなくっちゃな』

その若者は軽く言ってのけます。

東光坊『バ、バカな!紅葉は500年も生き続けているのだぞ。しかも上位の陰陽道を極めている。。。到底お主に奴の苦しみを取り除くことなんぞできやしまい。。。』

若者『んなこたぁ、やってみなきゃ分かんねーだろうが』

若者はさっきまでまくし立てていた町人を手招きします。

若者『アンタ場所分かるんだろ?』

そういうと若者はにかっと笑いました。

 
 

雪深い山の中を町人と若者が歩いています。

町人『旦那ぁ〜 やっぱりやめましょうぜ』

半分泣きそうな声です。

若者『うるせぇ!ここまで来て引きかえしたら格好つかないだろ!』

町人『そんな〜 オラは格好より命が大事だぁ』

しかし若者に睨まれてしぶしぶと歩き続けるのでした。

 

山に入って数刻。遂に目的の場所に辿りつきました。

町人『だ、旦那!あそこの木の根元に紅葉の奴いるだ』

若者『そうか。。。案内ご苦労だったな。お前は先に帰っていいぞ』

若者は一人で、紅葉に接近します。

若者『おい!アンタが紅葉さんかい?』

紅葉は若者の声に反応して振り返ります。その瞳は深い悲しみに沈んでいます。

よく見るとまだ若い娘じゃねーか。それがどんな辛い思いしたか知らねぇが500年も生き続けるたぁな。

紅葉『。。。お前は私の苦しみを解き払ってくれるのか?』

若者『ん?。。。あぁそのつもりで来たんだがな。よけりゃその苦しみの原因ってのは何だか教えてくんねーか?』

紅葉『。。。京の都で陰陽師としての修練を積んでいた頃。私には愛するお方がいた。。。そしてあのお方もまた私を愛してくださった。。。』

紅葉の瞳がいっそう悲しさを増します。

紅葉『なのに!あの男は私を裏切った!あの男には正妻がいたのだ。。。そして正妻に騙され私を都から追放した。。。あれほど愛してくれていたのに。。。』

突如話している紅葉の体が震え始めます。そして悲しそうだった瞳は今や怒りを帯びています。

紅葉『私は死ねなかった!悔しくて、苦しくて!あの男が憎くて。。。お前は先ほど私をこの苦しみから解き放ってくれるといったな』

紅葉の気迫に飲み込まれ身動きが取れない若者。

紅葉『ならば私を死なせてくれ!』

そう言うと紅葉は懐剣を抜き青ひげに襲い掛かってききました。

若者『ちょ、ちょっとまて!』

若者は紅葉を落ち着かせようとしますが、紅葉は聞く耳をもちません。もはや紅葉の瞳は人間のものではありませんでした。

なんてこった、こいつぁ魔物にとりつかれてやがる。殺らなきゃ。。。殺られる!

若者は準備していた弓を取り出し、矢をつがえます。しかし、紅葉の動きの方が上回ります。印を結ぶ紅葉。火柱が若者を襲います。

上位陰陽道を極めた紅葉の前にただ逃げることしかできない若者。

若者『ヤベーぞ。こいつ。。。強ぇな。。。だが俺はこんな所で死ぬワケにはいかん!』

若者が無我夢中で投げた雷鳴丹が紅葉に当たり、一瞬たじろぎます。若者はその隙を見逃さずすぐさま起死回生の一撃を放ちます。

若者から放たれた光の矢はまっすぐ紅葉の体に突き刺さりました。

印を結びかけていた紅葉の手が力なく落ちます。

紅葉『私は。。。死ぬのか?』

若者はゆくっりとうなずき、紅葉に近づきます。

若者『アンタはその男のことが憎かったんじゃない。。。いまでも愛しているんだ。だから死ねなかったんだろ?自分の本当の想いを告げることができなかったのが悔しくて。。。』

紅葉『。。。そうかもしれんな。。。いや、きっとお前の言う通りだ』

紅葉の瞳から妖気が抜けていきます。

紅葉『そういえばまだお前の名を聞いていなかったな。。。』

若者『俺か?俺の名は青ひげ。この腐った世の中を立て直す男だ』

紅葉『そうか。。。お前ならばやれるかもしれんな。。。ありがとう青ひげ』

糸が切れた人形のように崩れ落ちる紅葉。500年もの間、世を恨み、自分を恨みつづけてきたその瞳がそっと閉じられました。

 
 

ある人は季節が過ぎて冬になっても枯れることのできない紅葉を比喩して彼女のことを紅葉と呼びます。

しかし、本当にそうなのでしょうか。どんなに遠くからでも分かるくらい紅く染まった美しい 山間の紅葉。それこそが本当の彼女の名前なのではないしょうか。

青ひげが空を見上げると雪がポツリポツリ降り始めてきました。信濃にも本当の冬がやってきたようです。

それは遠い遠い昔の話。。。


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Last-modified: 2007-12-10 (月) 03:46:44