厳しい冬からようやく春へと季節が変わろうとする頃・・・
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城戸はいつもどおり三人の墓前へ赴いていった。
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三人の墓はうっすらと雪が積もっていた。お供え物も。
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城戸は少し思いつき、そこらへんにある木を伐採、何かを作り始めた
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出来上がったものを見ると、どうやら屋根らしきもの。それに足をつけ、三人の墓の後ろに穴を作って足を埋めた。
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どうやら墓やお供え物に雪などがかからないようにするようだ
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粗末な墓の前にはお皿がいくつかあった。その上には饅頭・水などあった。またそこらへんにあった花をそえ、線香を炊いた
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合掌―・・・
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一応の償いであった。これで自分の罪は消えるということはないが。
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「今年の正月はこれで勘弁してくれ・・・」
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といっておいたのは餅であった。少し季節がずれていたが・・・。
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去年の冬はなぜかケーキを置いていた。しかしそれは野犬に食われていたらしく、食い散らかしたあと以外何もなかった。
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それ以来、三人の墓の周りには柵が作られていた
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「・・・」
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もう一度合掌をした。すると背後に何か気配を感じた
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驚き振り向くとそこには一匹の犬と一人の少年・・・
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「何やってたの?」
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いつから見ていたのかしらないが、とにかく少年が聞いてきた
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「何って・・・供養しにきただけだ」
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「殺したの?」
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その言葉は重くのしかかってきた。何度思い出しても嫌な思い出である
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「ああ・・・」
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「それで償いとして供養してるの?」
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「ああ、そうだ・・・」
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少年は平然と聞いた。どんな人物かも知らずに、平然と。
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すると少年はそこでくしゃみをした。無理もない、この寒い中薄着一枚、しかも袖などが破れている
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「寒いだろう、これでも着てろ・・・」
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先ほど作った絹の服。少し間違い、使えなくなった。しかし服としては十分使える
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「いいの?」
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「ああ」
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「ありがとう」
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少年はにっこりと微笑み、薄着の上にその服を着た。

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ふと足元を見ると先ほど少年の横にいた犬が近づいて来ていた

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人懐っこいようだった
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「そいつの名前、小朗って言うんだ。家の近くにいたから一緒に遊んでたらなついちゃって」
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クスクスと笑いながら話す少年。その明るさに城戸はうらやましく思った
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「お前の名前は?」
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「小太郎」
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ピューッと口笛を鳴らし、犬を自分の下へと来させる
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「おいら、一応斉藤の忍者さ。あんた、確か中老の城戸だね?」
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「!忍者だったのか!?」
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「でも下忍さ。あ、無礼かもしれないけど敬って呼ばないから。おいらは階級に縛られるのは嫌いだから」
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そういうと腰を下ろし、犬とじゃれ始めた
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「いや・・・逆にその話し方のほうが話しやすくていい・・」
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「ならよかった。おいらの本名は松村小太郎。飛騨の生まれ」
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「飛騨・・・そうか」
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とりあえず少年の近くへいき、座った。少年といってもそんなに年は離れていない。多分、この少年は12歳くらいだろう。
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「・・・して、なぜここに?」
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険しい顔になった城戸。
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「そんなに警戒しないでよ。おいらはただここにきただけさ」
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「本当か?」
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「疑い深い人だね、本当さ。いつもこの犬と一緒に美濃を駆けるのさ。今日はたまたまここにきて、たまたまあんたがいただけ」
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呆れ顔で城戸を向きながら言う。
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「そうか・・・」
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そういい残すと城戸は稲葉山へと戻るべく、小高い丘から下り始めた
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城戸が立ち去ったあと、小太郎は独り言をいった
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「城戸って人、疑心暗鬼になってるね・・・」
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すると木の上から一人の男が降りてきた
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「仕方のないこと。しかし我らに害を及ぼす者となれば死あるのみ」
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「どうするの?思いつめてるあの城戸を」
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「どうもしない。ただ静かに見つめるのみ・・・」
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そう言うとすぐ姿を消した
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「はぁ、あのひとって話しにくいんだよなぁ・・・堅くて」
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ぶつぶつと先ほどの忍者のことをいう小太郎・・・
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「まあ、おいらも静かに見させてもらおうかな」
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そういうと小太郎もその場から去った。犬も一緒に。
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あとに残ったのはまだ寒々しい風、そして三人の墓だけであった・・・
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